CONCEPT

オルタナティブデータの活用事例


 

この記事では、様々なオルタナティブデータがどのように投資家やエコノミストに活用されているのか、ここでは以下のタイプのオルタナティブデータの国内外の活用事例を海外のオルタナティブデータベンダーのレポートや国内メディアの記事などを引用しつつ、ご紹介します。

オルタナティブデータの活用事例

Webスクレイピング:GoProのファンダメンタルズの弱さを予測

Shopping.comのようなアメリカの価格比較サイトを対象にしたWebスクレイピング(※1)データ(主に価格や市場シェアのデータ)から、アクションカメラメーカーGoPro社の新商品の売れ行きが不調であったことを予測した事例です。

 海外大手オルタナティブデータベンダーであるEagle Alphaは、同社のレポート「The Rise of Data - Leveraging Data in Your Investment Process Edition7」の中で、価格比較サイトにおける価格や人気ランキングのデータから、当時の新製品"Session"の人気が低迷していることがわかる、と指摘しました。過去にGoPro社が新製品を発表した期とその翌期にはサイト内での人気ランキングで2期連続1位を獲得することも多かったのに対し、”Session”は発売期に5位、その翌期には6位とかなり低い順位につけていることをデータから明らかにしました。

 実際にこうしたトレンドは株価にも現れ、同期間中のGoPro社株は60%程度下落(S&P500インデックスは10%程度上昇)したと報告されています。

 このように、WebスクレイピングデータはEC上での価格や人気度合いといったファンダメンタルズの情報を提供してくれます。

(出典:Eagle Alpha) 

SNS:ゲームの人気予測

 Twitterのツイート数やツイートのポジネガに関するデータを用いて、ゲームの人気を把握することができた事例です。2016年6月に発表されたEagle Alphaのレポート「The Rise of Data - Leveraging Data in Your Investment Process Edition7」で、アメリカのゲーム開発会社Activisionの新商品”Overwatch”が競合商品よりも成功を収める可能性が高いと記されています。

 同レポートでEagle Alphaは、Twitter上のOverwatchに関するツイートの絶対数が多かったことと、競合と比べてプラス評価のツイートの割合が高かったことを根拠として指摘しています。実際、競合製品は1週間のツイート数が高々100万ツイートだったことに対し、Overwatchは120万以上の関連ツイート数を記録しました。Overwatchは関連ツイートの内容もポジティブなものが多く、関連ツイートに占めるポジティブなツイートの割合が72%となり、これは同様の商品の中で最も高かったとのことです。

 このように、SNSデータを用いることで購買前後の関心をしっかりとうかがうことができます。

 

消費者購買データ:マクロ経済予測

ビジネスデータを用いた消費のナウキャスト

野村證券株式会社 エコノミスト 水門善之氏

 このレポートは、野村證券の水門エコノミストが当社にご寄稿くださったものでで、当社と株式会社ジェーシービーが提供するJCB消費NOWを説明変数の一つとして、GDPの推計を行っています。

実質GDP消費の予測値と実績値

出典:野村證券 水門善之氏による当社への寄稿「ビジネスデータを用いた消費のナウキャスト」(2019/9/2)より抜粋

 上図において、青線は実測値、赤線はJCB消費NOW指数を用いた予測値、緑線はESPフォーキャストというエコノミスト予想を表しており、エコノミスト予想(ESPフォーキャスト)より、RMSEが約0.05%pt、DA(実績に対する予測の正負の一致率)が8~10%pt、JCB消費NOW指数を用いた予測値のほうが比較的実測値に近いという結果が得られています。また、エコノミスト予想はしばしばアップサイドバイアスがあるとされますが、JCB消費NOW指数を用いた予測値はGDP消費が下振れする場面においても、一定程度正確な予想ができていると報告されています。

 こうした消費者購買データを用いた消費統計は、アンケートを主な情報源とする公的統計に比べ速報性において非常に有用であり、本分析事例はその有用性を上手く活用したものと言えます。

 

消費者購買データ:学術界での利用

The responses of consumption and prices in Japan to the COVID-19 crisis and the Tohoku earthquake

東京大学 渡辺努教授(創業者、技術顧問)

 このレポートでは、今回のCOVID-19が震災と類似した経済事象と考えるべきか否か、問題提起を行い、そのメカニズムの違いについて論じています。

 同レポートでは、その問題提起の中で、COVID-19に対する食品・日用品の消費と物価への反応がともに一時的に大きく伸び率を高めた後、一定期間後に落ち着きを取り戻す、という点で、2011年の東日本大震災の際と非常に似通った動きであることを示しています。コロナショックが本格化したばかりの2020年4月の段階で、速報性に優れた日経CPINow(POSデータをもとにした日次売上・物価指数)を活用したことで、初期的に把握し、経済的な影響を分析することができています。

 執筆者である渡辺努教授は当社の創業者で、現在は技術顧問を務めています。

東日本大震災時とコロナショック時によるスーパーの日次売上高と価格変動率の推移

 

出典:弊社創業者・技術顧問渡辺努のコラム「The responses of consumption and prices in Japan to the COVID-19 crisis and the Tohoku earthquake」より抜粋

 

 このように学術界でもオルタナティブデータの有用性は認められています。COVID-19が流行して1ヶ月程度という非常に早い段階で、このような分析が可能となるのはオルタナティブデータの魅力の1つでしょう。

 さらには、東京大学経済学部の北尾教授らのCOVID-19が日本の労働市場に与える影響に関する論文でもJCB消費NOWを用いた分析が行われるなど、ますます消費者購買データの利用は広がりそうです。

 

位置情報:携帯電話位置情報による経済分析

  シニアほど外出抑制 野村がリポート(市場点描)

  出典:日本経済新聞 2020/3/5 

 

 前述のJCB消費NOWを活用したレポートを当社に寄稿いただいた野村證券の水門エコノミストは、オルタナティブデータの活用に先駆的に取り組んでいます。

 水門氏はこちらの記事の通り、携帯電話の位置情報も活用してマクロ経済を分析しています。同記事では、新宿駅周辺の携帯電話の位置情報からシニア層の外出が控えられていることを指摘しました。

 本記事のほかでも位置情報の活用は広がっています。

 例えば、ある海外の活用例では、テスラ社の工場に出入りする作業員の携帯電話位置情報から工場の稼働状況を判断するなど、消費者の行動変化のみならず、企業の生産活動を捉えることにも積極的に活用されています。

 

衛星写真:原油の貯蔵量を分析

衛星写真で景気がわかる

出典:日経ビジネス 2017/11/25

 

 本記事で紹介されているOrbital Insight社は米国の衛星画像分析のスタートアップで、原油生産量や小売業の客足を分析しています。

 

 特に有名なのが原油貯蔵タンクの量の把握です。OECD加盟国は原油貯蔵量などの経済統計を正確に発表していますが、サウジアラビアのようなOECD非加盟国の場合は、 政府の発表する経済統計が不正確であったり、そもそも原油タンクの数や場所自体が明らかにされていなかったりするため、既存のデータから把握できない部分が大きいと言われています。しかし、Orbital Insight社は原油貯蔵タンクの浮き屋根に注目し、その影の高さから原油の残量を割り出すことに成功しています。

 このような、衛星写真から生産状況を把握する手法は、鉱石や天然ガスなど他のコモディティでも利用されています。

 

※1…WebスクレイピングとはWeb上で公開されているページから、データ分析上有用な情報を自動収集する行為のことを言います。

【参考文献】

Eagle Alpha. (2020). The Rise of Data - Leveraging Data in Your Investment Process Edition7. page 57-58, 88-89, Retrieved June 8, 2020, from https://era-priod-active-storage.s3.eu-west-1.amazonaws.com/Vj9MS4jcCDDIAwbC3H9uSfQd

 

Watanabe T. (2020). The responses of consumption and prices in Japan to the COVID-19 crisis and the Tohoku earthquake. VoxEU. Retrieved May 15, 2020, from https://voxeu.org/article/responses-consumption-and-prices-japan-covid-19-crisis-and-tohoku-earthquake

 

Kitao S. et al (2020). Heterogeneous Vulnerability to the COVID-19 Crisis and Implications for Inequality in Japan April 24, 2020, from 

    http://www.crepe.e.u-tokyo.ac.jp/results/2020/CREPEDP71.pdf

 

水門善之 (2019)『ビジネスデータを用いた消費のナウキャスト』<https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/jcbconsumptionnow.com/News/20190902_Nomura_Suimon.pdf>

 

日本経済新聞社(2020年3月5日)「シニアほど外出抑制 野村がリポート(市場点描)<https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56453240V00C20A3EN2000/>

中田敦(2017年11月25日)「衛星写真で景気が分かる」『日経ビジネス』2020年5月15日アクセス <https://business.nikkei.com/atcl/report/15/061700004/111600233/>